地域メディアととんかつ大矢

furumachi2012-10-28

読者層にちゃんと届くことを意識しながら、地元の「人」にフォーカスし、クオリティの高い媒体作りにこだわる「美少女図鑑」「大槌みらい新聞」。一方、ロードサイド化が進む上越の街なかにありながら、変わらぬ味とおばちゃんの個性で地元住民に愛される「とんかつ大矢」。これは共通点があるかも。ちょっと強引か?

行ってきました!全国の市民メディアの仕掛人上越市に集まり情報交換&交流する「くびき野メディフェス」。27日に行われたシンポジウム「東日本大震災地域メディアは何を伝えたか」に続いて、新潟ソーシャルメディアクラブ(NSMC)主催の分科会「地域メディアにおけるソーシャルメディアの可能性」に参加した。

■リアルな広がりに課題
分科会ではまずは、NSMC主宰の一戸信哉敬和学園大学准教授が新潟のソーシャルメディアの現状を説明。ブログやTwitterFacebookなど個人が手軽に情報発信できるソーシャルメディアは新潟でもアーリーアダプター層中心に定着し、NSMCは2010年から、交流会やフォトウォークなどのイベントを通して彼らユーザーをつなぐ活動を行っている。

もともと個人的な情報発信から始まったソーシャルメディアは、年々影響力を増している。最近では、ビデオリサーチがTwitterの「バズ」度合いでテレビ視聴動向を測るという報道もあった。一方でネットという特性上、東京と地方、世代間で使用状況に格差があり、特に地方ではユーザー以外への発信力、リアルな社会との接点作りに課題があるという。ふむふむ。

では、そんな地方で地域の情報をどう発信し、リアルに影響力を出していくか。続いて、新潟のおしゃれコミュニティーに向けて「新潟美少女図鑑」などのフリーペーパーを発行するテクスファームの加藤雅一さん、津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町で地域紙「大槌みらい新聞」を立ち上げた藤代裕之さんの話を聞いた。

■広告らしくない広告
新潟美少女図鑑」は、古町周辺のアパレル店や美容室など街の情報を載せていたフリーペーパー「SODA」の1コーナーから派生して、2002年に創刊された。店頭に並ぶとすぐ品切れになる人気から「幻のフリーペーパー」とも言われ、今では全国30エリアで同様のビジネスモデルで各地の美少女図鑑が発行されている。

こだわっているのは「女の子のための雑誌」。地元の素人の女の子をモデルに、あくまで女性目線でクオリティの高い誌面を目指す。フリーペーパーなので広告で利益を上げるのだが、広告らしい広告はなく、美容室やファッションビルなどがさりげなく誌面に登場するだけ。これってできそうで、なかなかできないんだよねぇ。

美少女図鑑の成功の理由を「もともとあるコミュニティーに情報を発信していること」と加藤さんは言う。フリーペーパーだけど、街頭や郊外のスーパーなどで広く配布したりはしない。古町・万代を中心とした新潟のおしゃれコミュニティーにターゲットを絞り展開することで、影響力とクオリティの高さを確保している。

■被災地の町民をつなぐ
大槌町盛岡市からバスで3時間。津波で大きな被害を受けた他の地域と比べて情報発信が弱く、支援も他の地域に比べて集まりにくい。地元のローカル紙が休刊したこと、仮設住宅でコミュニティが分断されたことなどから、「あの人はどこにいるのか」という情報ニーズすら対応できていないという問題も発生している。

この状況を救おうと藤代さんは、紙+電子版とソーシャルメディアのハイブリッド型地域メディアを考えた。しかし実際に調査すると、町でソーシャルメディアを使う人は少なかった。「出しても届かなくては意味がない」。新聞記者からネットの世界へとシフトしてきた藤代さんだったが、大槌では紙の新聞を刷ることにした。

この夏創刊した「大槌みらい新聞」では、新聞的な固い記事だけでなく、地元町民の顔写真が載るよう意識して作っている。このことが町内で話題となり、分断されたコミュニティーをつなぐことにもなっている。取材は15人の学生インターン。月1回の発行で、現在は無料で町内全戸に配布しているという。

■ネットで広がる支援の輪
紙で刷ることをメーンに展開した「大槌みらい新聞」だが、Facebookページでは主に町外へ向けて情報発信している。町内は紙の新聞で、町外とはFBページでつながる。当初の構想とは違うかもしれないけどハイブリッド型が実現した格好。先日は地元のローカル食「あずきパッド」をFBで紹介し、大きな反響を呼んだという。

大槌に興味を持つ人に広く情報発信することで、支援の輪が広がっていく。創刊時にクラウドファンディングで寄付を募ったが、またやらないの?という声や継続して支援したいと思っている人もいるという。コンテンツ自体より、この活動や取材のプロセス全体を見せることで支援してもらえるカタチができつつある。

美少女図鑑」もスポンサーは、目立つことよりも媒体全体のコンセプトに共感し支援しているように見える。媒体コンセプトや読者層が明確なら、地方で発行部数が少なくてもビジネスは成り立つ。その上でソーシャルメディアには、プロセスを見せる場、リアルとつなぐツールとして使い道がある、ということが分かった。自分にも気づきのある、いい分科会だった。

■そして、とんかつ大矢
分科会の後、出演のお3人と食事をご一緒させていただいた。藤代さんの上越出身フォロワーさんオススメの「とんかつ大矢」へ。来たのは10年ぶりくらいか。ロードサイド化が進む上越市においても、このお店は満席御礼。たしかに美味しいもんなぁ。そうか、まずは高いクオリティを確保するのがやっぱり大事なんだ。

そしてお店のおばちゃんの味のある接客がまたいい。醤油をかけて食べていいかと聞いたら、「うちのソース、美味しいのよぉ」って。そう言われたらソースでいただくしかない(たしかに美味しいソースでした)。そう言いつつ、ちゃんと醤油も出してくれるのがまたうれしいところ。いいお店だ。

最初のシンポジウムで、「マニュアルよりマンパワー」と話していたパネリストさんを思い出す。人口減などで先細っていく地方が生き残っていくには、地元の人の個性を前面に出していくしかない。メディフェスで見て聞いたことを、食べながら舌でも実感したとんかつ大矢の夜。とても勉強になった。ごちそうさまでした!